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懲りずに続ける(Ⅳ)その2

「竹酢液のはたらき―そもそも竹酢液とは何か」

□そもそも竹酢液とはなにか
 竹稈(竹の幹)の表皮を薄く削って乾燥させ、それを煙草のように煙にして吸引すると喘息が止まるという話をこれも炭焼きさんから聞いた記憶がある。これは竹稈の表皮に含まれる成分が熱分解し、喘息に効く物質に変わったものと考えられる。この話からも分かるように、タケを熱分解してやると何か面白い熱分解生成物が新たに作り出されることが分かる。炭焼きさんの経験に基づく貴重な発見であるにもかかわらず、無視されてしまうことが多々ある。
 青竹を丸ごと火であぶり、その時切り口から噴き出してくる液を「竹歴」と言い、漢方では薬にしているが、これも熱分解生成物が含まれていると考えてよいだろう。タケを構成する化学成分の主なものはセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンであるが、その他にも糖類や油分、タンパク質などが存在する。この竹を炭にする過程で、タケを構成している色々の物質が熱で分解され、気化して煙になって出て来る。
この煙には、生竹に含まれている水が水蒸気となって出て来るのと一緒に組成分の熱分解生成物が混合している。
タケを加熱していくと最初に出て来るのは、揮発しやすい微量な抽出成分で、そのほとんどは空気中に拡散、消失してしまう。しかし、竹歴の中に微量ではあるが溶け込んで残るものもあるため、これを漢方薬として使ったのであろう。これら揮発成分が出た後から前述した主要三成分が熱分解を始め、煙となって出て来る。この煙は木炭の場合、木ガスおよび水蒸気が煙突で冷却され水になる過程でこの水に可溶の熱分解生成物による混合液(留出液)に大別される。この茶褐色の燻煙臭の強い留出液を木酢液、タケの場合は竹酢液と呼んでいる。
タケの構成成分であるセルロース、ヘミセルロースの熱分解によって得られる分解生成物は、酢酸を主とする有機酸、メタノールなどのアルコール類、カルボニルとしてのホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、その他の中性成分である。リグニンの熱分解生成物は、主にフェノール性のものが得られる。フェノール、オルトクレゾール、メタクレゾール、カテコールやグアヤコールなどで、最近赤ブドウ酒に含まれているポリフェノールが有名になったが、竹酢液に含まれるリグニン由来のものも多くのポリフェノール類が含まれている。このポリフェノールの仲間に、興味深い色々の生理活性物質が含まれていることは間違いなさそうである。図一及び表一、表二にガスクロマトグラフ質量分析器を用いて私が実際に竹酢液を分析した結果の一部を示してある。大雑把に分析しても40種類近くの成分が含まれており、実に多様な構成であることが理解出来るであろう。
このように分類できるもの以外に、一般にラジカルと呼ばれる化学的に不安定で反応性に富んだ物質も数多く存在し、それ自身がまわりの化学物質と相互に反応を続け、変化していくため熱分解直後の竹酢液は極めて不安定なものと考えられる。それゆえ、色々の用途に竹酢液を用いるためには、まずこれに含まれている色々の成分が安定するための時間が必要となる。特に、フェノール類は紫外線などによって変質、変色し、専門的な表現になるが、縮重合して重たいタール状の物質に変わる。
これらは竹酢液を静置しておくと、徐々に下に沈殿してくる。通常は、6カ月から一年は貯蔵する必要がある。
このように貯蔵した後、重たい成分は主にタール分となって底に沈み、竹酢液は三層に分かれる。上澄み液には少量の油分が含まれており、この部分は極僅かで、その下の中層が大部分を占める。下層の比重の大きいものがタール分である。竹酢液はこの三層に分かれたものの中から主に中層のものが使われる。
竹酢液の構成成分のほとんどは水で、90%以上を占める。残りの数%から10%程度が有機酸を中心とする有機化合物である。この割合は製炭法によって異なり、特に鉄窯の場合は、竹酢液が鉄と反応して液が黒褐色になることが多く、成分も異なったものが得られる。当然ながら、モウソウチク、マダケなど竹の種類によっても熱分解生成物の種類や各成分の収量も異なるものになる。

(続く)